第5章 家康と金平糖
城下で猫爪を見つけてから数日。
安土城に来たばかりの頃に比べたら平和な生活を送っていた。
信長様に呼び出された夜は天守で未来の話をしながらお酌をしている。
政宗とは朝食を一緒に作り皆で広間に集まって食べる。
朝食後は軍議の有る無しに関わらず毎日のように秀吉さんか光秀さんの御殿を訪問している。
姫らしく振る舞うための所作を学ぶためだ。
三成くんには手が空いた時間に囲碁を習っていた。
さすが信長様の次に強いだけあって1度も勝てたことはない。
でも負けてもあのエンジェルスマイルで褒めてくれるもんだから『もう1回お願い!』と、何度も勝負に付き合わせてしまう。
家康の御殿で薬作りを手伝う事もある。
傷に塗る薬はすぐになくなってしまうため、戦がない時に沢山作っておきたいのだそうだ。
毎日をこんな風に武将たちと過ごすなんて。
もしかしたら全部夢なんじゃないかと思ってしまうけど頬をつねれば痛い。
しかもその姿をうっかり光秀さんに見られてしまって何度もからかわれたのだった。
今日は家康と一緒に城下に来ていた。
先日と同じく、薬を作るのに必要な物と秀吉さんに内緒で金平糖を買いに行くためだ。
もちろん金平糖は信長様からの大事な命令なので真っ先に先日訪れた甘味のお店を目指した。
店主は家康の顔を見るとすぐに棚から小瓶を取り出した。
『徳川様、いつもありがとうございます』
『また来るから仕入れといて』
(こ、この光景、こないだと全く同じ!?)
金平糖を受け取り甘味屋を出る。
『家康も信長様に対しては金平糖より甘いんだね』
『は?何言ってるの?命令に従っただけでしょ。あの人の命令に逆らったらどうなるかあんた知らないの?』
『鳴かぬなら殺してしまえホトトギス、でしょ?』
『何その句、変なの。まあ、わからなくもないけど』
『家康だったら鳴かないホトトギスをどうするの?』
『そんなの鳴くまで放っておけばいいんじゃない?』
『あ!鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギスだ!』
自分が作った句ではないのに、イメージ通りだったことが嬉しくてついつい顔に出てしまう。
『あんたって本当に変な子だね』
そう言う家康の表情と声はいつになく優しいものに感じた。