第19章 白鳥城
謙信の馬に乗せられ、ゆっくりとなだらかな丘を登っていく。
平地に築かれた富山城がよく見える場所に支城である白鳥(しらとり)城が築かれていた。
『明日の朝にはこの城に仮の拠点を移す予定だ』
『ここからだと戦いの様子がよく見えそうですね』
直美が不安そうな表情になったのを謙信は見逃さなかった。
『心配しなくてもいい様、特別な部屋を用意してある』
特別な部屋。
少し違和感のある言い方だけれど、この時深くは追及しなかった。
『必要な物があれば今日中に城下で揃えさせる。遠慮なく言え』
『ありがとうございます』
白鳥城の中を一通り歩いたあとは周辺の設備を見て回る。
富山城に比べたら小さな城だが、支城としての機能は素人の直美から見ても問題なさそうに見えた。
太陽が沈み始める前に富山城に戻る事になり、再び馬に乗せられる。
木々に囲まれた道を進んでいると正面から気配を感じ、謙信がピタリと馬を止めた。
(謙信様、どうしたんだろう?)
無言で見つめるその先から表れたのは三成の姿だった。
(念のため単騎で乗り込む前に下見に来ましたが、まさか上杉謙信本人と直美様にお会いできるとは。予定外ですがこの場で交渉するしかありませんね)