第4章 秀吉と金平糖
空腹と喉の乾きで目が覚めた。
安土城に来てから何も口にしていない。
外は少しずつ明るくなっている。
用意されていた小袖に着替えて厨房へ向かうとすでに政宗が来ていた。
馴れた手つきで魚を捌いている。
『政宗おはよう!朝早いんだね、って、魚捌くのすっごく上手い!』
『お、直美か、お前も早起きなんだな。俺の趣味は料理だから安土にいる時はだいたいこの時間はここにいる。お前はつまみ食いでもしに来たのか?』
『そんなんじゃないよ。あ、そうだ。私にも手伝わせて!魚を捌くくらい出来るしお皿洗いでも野菜の皮剥きでも何でも任せて!』
『へぇ、そりゃ感心だ。やっぱりお前は変わってる奴だ』
もともと料理は嫌いじゃない。
今までのアルバイトは飲食店で配膳やレジ打ちだけでなく、料理の下準備だったりパフェを作ったり、時には高級な珈琲を入れたりもした。
魚に関しては完全に親の影響で、海や川で釣った魚をその場で捌いて焼いて食べるのが毎年の夏の思い出なのだ。
野菜を洗ったりお皿を並べたり。
簡単な手伝いをして朝食の準備が終わった。
『手際が良くて助かった、ありがとな。これで出来上がりだからちょっと味見してみろよ』
『……お、美味しい!素材の味がちゃんと出てるね。完璧だよ!』
趣味に留めるには惜しいと思ってしまうほどプロ顔負けの腕!そのくらい美味しかった。
『お前なぁ、誉めながらその笑顔は反則だぞ。俺の事煽ってるのか?』
『そんなわけないでしょ!』
政宗が近寄って両手で私の頬を包む。
澄んだ青い瞳から目を反らすことが出来ない。
あれ、この展開ヤバイかも。
(んー、ドキドキするー)
思い切りぎゅーーっと目を閉じると大きな声で笑われた。
『そんな顔するな、無理矢理とって喰ったりしねえから』
『でも秀吉さんが政宗は手が早いから気をつけろって…あ、今の聞かなかった事にして!』
『秀吉の野郎…あいつ、城下に出るといつも女に囲まれてるくせによく言うぜ。安土にいる武将の中じゃ俺が一番まともだと思うんだがなぁ』
『ふふっ、自分で言うと説得力ないね』
『そのうちにわからせてやるからな。俺に惚れて後悔するなよ?』
『はいはーい』
『つれない返事だな。さて、せっかくの料理が冷める前に食いに行くぞ』
配膳は女中さんたちに任せて広間に向かった。