第15章 再び城下へ
元就は直美にぐっと顔を近づけると耳元で囁いた。
『上杉なんかより俺の方がいいぞ。楽しませてやるから一緒に安芸に来いよ』
その言葉の直後、いきなり顎を掬われ唇を塞がれる。
『んーっ!!』
(嘘!何この人!あり得ない!!)
『やめろ!直美さんにそれ以上触るな!』
佐助の声が聞こえる。
身を捩って抵抗するとすぐに塞がれた唇は自由になった。
『何するんですか!!』
『なかなかいい反応だな。もっとしてやろうか?』
再び元就の手が直美の顎を掬う。
だが、元就の動きがピタリと止まり、視線が建物の入り口に向けられている。
そして聞こえたのは聞き覚えのある声。
『その方から離れなさい。さもなくば全員この場で斬ります』
そこに刀を持って現れたのは景家だった。
『邪魔な奴が現れたな、続きはまた今度だ』
元就は直美にそう告げると仲間の男たちと共に裏口から逃げて行った。
景家は商船とその取引先を調べてこの倉庫にすぐたどり着いたらしい。
手を縛っていた縄を切ってもらうと緊張感がなくなり、すぐにその場に座り込んでしまった。
『直美様、大丈夫ですか?』
『はい。景家さん、ありがとうございます』
元就に唇を奪われたなんて言えるはずもなく、佐助にも話を合わせる様、目で合図を送った。