第14章 春日山
しばらく沈黙の時が流れた。
(何のためなんて私が聞きたい。未来から来た事は信長様と秀吉さんと約束したから言えないし。どうしよう)
とっさに思いついた逃げ道はあれしかない。
こういう時こそいちかばちか交渉あるのみだ。
『じゃあ、私と囲碁で勝負してください。もし私が負けたらその度に何でも一つ質問に答えます。どうですか?』
突然の交渉に信玄は驚いた顔をしたものの、すぐに余裕のある笑みを浮かべた。
『いいだろう。ささやかな抵抗に思えるが君との時間を過ごせるのなら悪くない。その代わり、俺が勝ったらどんな質問にも答えてもらうよ』
さっそく部屋に碁盤と碁石が用意された。
静かな部屋の中に碁石を置く音だけが響く。
そして数分後。
『ふーん、なかなかやるな。今回は完敗だ』
勝ったのは直美だった。
『男に二言はない、今夜は諦める。また勝負しよう』
『はい』
信玄は優しい笑顔を向けるとおやすみの挨拶をして部屋を出て行った。
(よかった、正直かなり危なかった。さすがは信玄様、気を抜いたら負けちゃいそう)
その後は昼間走り回った疲れもあって、朝までぐっすり眠り込んだのだった。