第2章 安土城
広間を出るとなんと秀吉さんが私の事を待っていてくれた。
『城の中、案内しながら天守まで送ってやるからついて来い。だけど信長様に何かしたら女だろうと斬るからな』
そう言って私の前を歩き始めた。
『そういえば、足を怪我したみたいだけど大丈夫なのか?』
『あ、はい。家康に診てもらったし痛みもだいぶ無くなりました』
『わかった。でも無理するなよ』
秀吉さんが心配してくれるなんて意外すぎる。
厳しいだけの人じゃないんだとわかって何だか嬉しくなった。
しかも歩くペースを私に合わせてくれている。慣れない着物でいつもより遅いのに。
早く警戒心がなくなってくれるといいな、心の中でそう願った。
書庫、武器庫、厨房、針子部屋、案内してもらいながら歩いたけれどどの部屋も綺麗で管理が行き届いてるのが一目でわかる。
戦うための城というより見せるための城、そんな風に言われていた…と勉強したのを思い出した。
『本来なら城主は本丸御殿で休むんだが、信長様はいつも天守で休まれている。この廊下を奥に進めば天守だ』
進むにつれて秀吉さんの表情が固くなり、背筋が伸びたのがわかった。
(家臣という立場であっても天守に来るのは緊張するんだ)
『信長様、直美を連れて参りました』
『二人とも入るがよい』
天守である信長様のお部屋は当たり前だけど今まで案内されたどの部屋よりも豪華で、家具などの調度品も値段がわからないくらい高級そうな物だ。
凄い、凄すぎる。
『直美、これをくれてやる』
『ありがとうございます』
手渡された短刀を受けとると秀吉さんが驚いたように口を開いた。
『その刀は薬研藤四郎!そんな大事な刀をよろしいのですか?』
『ああ、直美はこの城に姫として置くのだから名もない刀など似合わぬだろう。直美、その刀は切れ味は抜群だが主人の腹は斬らないという伝承がある。持ち主を守る刀だ。城の外に出る時は必ず懐に忍ばせて持ち歩け、良いな』
『はい……ですが、刀など持ったことも使った事も、ましてや本物を見たこともないんです…』
『直美、お前どこから来た?大事に育てられた姫なのか?姫じゃなくても刀くらい見たことはあると思うが…』
秀吉さんが不思議そうに私を見ていた。