第3章 Secret Lady
「そうなんだ、それでそのままここへ?」
男性は名前を大野 智、と名乗った。
私の7つも上で、年齢を言った時には
久しぶりに「若っけえな」と笑われた。
この年齢になって
若い、だなんて
なかなか言われなくなったから
なんと返せばいいのか
わからなくて。
まあそうか、
智さんにしたら若いのか。
「邪魔はしないから」と言った智さん。
なのに、
彼の不思議なオーラのせいか
私たちの偶然な境遇のせいか
1本のシャンパンを二人で飲んで
お互いのことを話している。
「はい、独りで思い出に酔ってます」
と笑う私に
「もったいねえよ、
ちゃん放って他行くなんて」
言ってくれる言葉は
全て言われたことのないような
ストレートに嬉しいものばかりで
女の子がつい期待をしてしまうような
甘いもの。
「…さ、智さんこそ」
「あ?俺?俺はダメだから
ふふ、しょうもない男なの!」
またくしゃっと笑う33歳に
ドキっとしてしまう。
意外と砕けた話し方をする智さん。
初めに感じた、そのミステリアスな
色気のある雰囲気とは違って
親戚のお兄ちゃんのような
身近な感覚も出してくる。
この人の「本当」が掴めない。