第6章 戻った日常
「お前さ、大切な休日会ってやってんだから
もう少しこっちの気使えよ」
「………」
「そのくせ浮気だ浮気だうるせえし」
「………」
「ほんとに浮気でもしよっかな俺」
私、何してるんだろう。
この人の何を見てきたんだろう。
「……私」
口を開いた瞬間、
私達の座る席に人影が重なる。
私の角度から見えたのは
見覚えのある、短い襟足。
「すれば?浮気」
懐かしい、柔らかい声は
久しぶりに聞いたせいか
あの時とは少し違う強い口調で。
「その代わり」
「彼女は俺にくれない?」
見覚えのある、その人は
彼の名前を呼んだ。
「………さ、としさ…」
振り向いたその人は
また小さく笑って。
「助けに来たけど、迷惑だった?」
その言葉はいつか聞いた冗談。
『 助けに来たって言ったら? 』
滲んでいく視界で、
首を左右に振ると
「よかった」とまた幼く笑う。
「……だ、誰だよコイツ」
驚いた顔した彼が
私を見つめた。
「…智さん」
「だからお前の何だって聞いてんだよ!」
力強くテーブルを叩き、声を荒げた彼。
なのに、
私の頭は何故か凄く冷静だった。
「お互い様、でしょう?」
「何がだよ!お前まさかコイツと」
「智さんは私の兄妹じゃないよ」
その言葉に
自分の立場を理解したのか
「違うんだよ、浮気とかじゃなくて俺」
まだ言い訳を続ける彼に
笑ってしまった。
「…大丈夫、もう大丈夫だから」
智さんの顔を見て
「助けて…くれますか?」
手を差し出した私に
ふふ、と含み笑いをした智さんは
「了解」
と彼をその場に残して
まるで王子さまのように
連れ去ってくれた。