第4章 きみを連れ出して
彼が連れてきてくれたのは
近くの港で。
「…ふね?」
「そ、ほんとは夕方くらいから行くのが
丁度いいんだけど」
と、また離された私の右手を引いて
目の前のクルーザーに乗り込もうとする。
「あ、」と何かを思い出したように
立ち止まり、私の方へと振り替える。
「酔ったりする?」
「や、大丈夫です」
「そ、良かった」とフンワリ笑って
グレーのカシミヤのマフラーの中に
それが消えた。
「さっみいな」と小さく
独り言のように言った智さんが
繋いだその手を左のポケットに入れる。
まるでカップルかのように。
自然にそんなことをする彼に
視線を向けると
チラッと私を見て首を傾げて
小さく笑う。
なんだか
知らない世界に連れていかれるみたいで
不安になった。