【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第7章 アザミの家
この猫が個性により動物に変化した少年――翼であるとは、傍目からはとても見抜けないだろう。蛙や鳥など、動物と同じ身体的特徴の個性を持つ者は少なからずいるが、完全な動物に姿を変えられる個性は出久も聞いたことがないし、初めて見た。とても希少な個性だと言えるだろう。
「地球上に実在する動物なら何にでもなれる。虫とか魚でもね。さっきのを見たから分かると思うけど、サイズもある程度は調節可能。ただあまり人間とかけ離れた動物に長時間なってると、人間であることを忘れて戻れなくなることがある」
求めてもいないのにつらつらと説明を続ける桜。あいつが戻れなくなると一苦労なんだよねえ、と顎に手を当ててため息をついている。
ここまで細かに個性に関する情報を話してくれるということは、信頼されているのか。いや、それとも、知られたところでお前など一捻りにできる、という脅迫めいた意図が込められているのか。信頼されるようなことをした記憶はまったくないし、後者の方が濃厚そうだ。
それにしても、と出久は考えた。動物に変化できる個性。物体を操作できる個性。前者は間諜や情報収集の面にはこれ以上ないほど長けているし、戦闘力も申し分ない。後者は言わずもがなだ。敵が持っている武器を触れるだけで無効化し、それどころか自由に操り自らの得物とすることもできる。それでなくとも世の中には数え切れないほどの物体が存在していて、彼女はそのすべてを味方につけることができるのだ。強力で戦闘の幅も広い、素晴らしい個性だ。あくまで彼らをヒーローという視点から見れば、の話だが。
「すごい……どっちも強力な個性だ」
思わず口に出してしまった。出久の言葉を聞いた桜が後ろを振り返り、笑う。
「それを言ったら君の個性もすごいでしょ。ワン・フォー・オール。あれほどのパワーを発揮できる個性なんて他にないよ」
そうか。そりゃそうだ。パワーやスピードでワン・フォー・オールの右にでる者はいない。何と言ってもNo.1ヒーローの個性なのだ。自分のことを褒められたわけでもないのに何だか気恥ずかしくなり、出久ははははと渇いた笑いを漏らした。