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【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】

第6章 謎の少年




「ほら、聞きたいことがあるなら聞いたら?『継承者』くん。そのために来たんでしょ」


 少女は出久を顎で示し、発言を促した。出久は翔と視線を合わせることができずに下を向く。所在なく中空に浮かんでいた両手で、ジャケットの襟のところを掴む。別に意味はない。誤魔化したいだけだ。何を誤魔化したいのかは、出久にも分からない。


「一ノ瀬くん……」


 名前を呼んでどうする。聞くんだ。ほら。疑問。疑問なら山ほどある。この少女と少年は誰? この敵たちは? 君たちを狙ってるの? だとしたらどういう目的で? さっきの少年は、太陽くんはどこ? どうしてこそこそと隠れるような真似を? 実に奇妙なこの状況にして、分からないことは星の数ほどある。けれどそのどれもここで聞くには場違いのような気がして、口から出る前に喉の奥で溶けてなくなってしまう。


 とどのつまりは、聞く勇気が出なかったのだ。ここまで追いかけてきておいて何とも間抜けな話だが、このような衝撃的な形で現実を突きつけられ、怖じ気づいてしまったのだ。翔はただの高校生ではない。少なくともこうして徒党を組み、害意を持っているとは言え生身の人間を攻撃した。気絶するほどに容赦なく、あまりに熟達した戦いぶりで。


 改めて、出久は恐怖を感じていた。少しは覚悟できていたはずなのに、現実はその何百倍も生々しく出久の胸を穿ち、全身をすくみ上がらせている。


「あの……個性、使って良いの? ここ、許可されてるわけじゃない……よね?」


 結局口をついて出てきたのは、核心をつくようでつかない曖昧な質問だった。言葉の端々から自分の臆病さや保身ぶりが透けて見えるようで、質問した傍から嫌悪感がこみ上げてくる。


 翔の方もそのような質問は予想外だったようで、赤い瞳孔をきゅっと細めた。静かに息をつくと、首もとに手を突っ込み、シャツの中から何かを引っ張り出す。


 出てきたのは、ビニールカバーが取り付けられた名刺大のカードだった。カバーの上部に紐が通してあって、首から提げる形になっている。

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