【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第6章 謎の少年
「あっちもそろそろ終わる。彼のことは翔が来てからにしよう」
言いながらきろりと睨まれ、肩口に怖気が走る。どうしよう、逃げた方がいい? 翔の正体を見極めたくてここまで来た、それは間違いないが、その決意に危うくヒビが入りそうなほど恐ろしい目だったのだ。それに、翔のことをひとまずは信じることにしたとはいえ、彼が敵である可能性だって完全にないわけではない。
翔を知っているふうの、この二人こそ、恐ろしい敵であるという可能性は? そうだ、彼らは路地裏とはいえ、私有地ではないところで躊躇いなく個性を使ってみせた。許可された場所以外での個性使用は禁止、戦闘のためとなれば尚更だ。見つかれば法律で罰せられる行為を一切の躊躇なくやってのけ、凶悪な敵をいとも簡単に叩きのめしてしまえる人間が、本当に「善良な市民」と言えるだろうか?
しかしそれに気づいたところで、出久にはどうすることもできなかった。ひとたび使えば身体が粉々になる超リスキーな個性で、いったいどれだけのことができるというのだろう。この二人の戦闘の熟達ぶりからして、まず間違いなく無事で逃げ切ることはできないだろうに。
「噂をすれば」
おもむろに少女が振り返り、笑みを深めた。彼女が仰ぎ見る橙色の空に、何か黒い影が飛んでいる。それはみるみるうちに大きくなり――いや、こちらに近づいてきているからそういうふうに見えるのか。それにしても凄まじいスピードだ。ぐんぐんぐんぐん近づいてきて、あっという間に頭の先を掠めるかというほどの距離まで迫ってきて、出久は思わず「ひっ」と悲鳴を上げて両腕で頭をかばった。
ドォォォン!!
その影は先ほどの狼の突撃に勝るとも劣らないスピードで、路地裏の奥に突っ込んだ。再び土埃が舞い、今度は何だと目を凝らす。
人だ。人が足元に転がっている何かに向かって身を屈め、今まさに起き上がろうとしている。灰色のジャケットに深緑のズボン。肩胛骨の内側を突き破るようにして生えているのは、鴉のそれよりも黒い、大きな翼。
振り向いた顔に灯る二つの赤い瞳が、出久を映して大きく見開かれた。
「えっ、緑谷!?」