• テキストサイズ

【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】

第6章 謎の少年




 一度途切れたはずの殺意が何倍にも膨れ上がって路地裏を圧迫し、思わず喉からひゅうと悲鳴のような音が漏れた。その殺意は出久に向けられたものではないのに、それでも全身の骨が電撃でも受けたようにびりびりと震えおののいている。手指など末端から体温が失われ、額や背中に冷たい汗が滲んでいく。それは紛れもない、出久がこの男たちに恐怖しているという証だった。


 これが悪意。これが敵。出久もヘドロ事件で敵と対峙したことがあると言えばあるが、あの時はほとんど我を失っていた。正気でこんな、絶対的な殺意と向き合うことはきっと、今の自分の精神力ではできない。


 だがそんな膨大な殺意を一身に受けてなお、少女の顔には不安も恐怖も怯えも掠めることはなかった。それどころか、男たちの途切れない殺意を嘲り、嗤い、哀れむような表情すら浮かべてみせた。


「なめる? なめてたのはそっちでしょ。子供相手だから楽な仕事だと思ってたんだろうけど、お生憎様」


 少女が一拍開けて言う。罪を告白するような、何かを侮蔑するような、複雑な声色で。


「私たち、ふつうの子供じゃないから」


 その言葉が二人の男に届いたかどうかは分からない。少女の言葉が終わらぬ間に、彼らは自らの殺意に突き動かされるままそれぞれ攻撃態勢をとり始めたからだ。


 まず鳥男が素早く眼帯男と入れ替わって前に出ると、白い羽に覆われた両腕を大きく広げ前方に思い切り振るった。瞬間、男の腕から放たれた無数の羽が小さな鳥へと変じ、少女と大狼へ一斉に襲いかかった。あれが彼の個性か。


「死ねぇぇぇ!!」


 鳥男の雄叫びに応えるように、濁った目をした無数の鳥たちがピイピイとけたたましい鳴き声をあげた。凶悪なほどに鋭く尖ったくちばしを携え、狼に迫る。


 しかし狼は寸分の焦りも見せず、むしろゆったりと余裕のある動作で斜め上方に跳躍した。自身の真横にあった建物の壁に垂直に着地し、間髪入れず再び跳躍。向かい側の建物の壁に足をつけ、さらに跳躍。そうして路地の両側の建物を交互に跳び上がり、瞬く間に建物群のてっぺんへと到達した。


 鳥たちも狼の動きを追いかけて垂直の軌跡を描き、上へ上へと伸び上がっていく。その間に地上にいる少女は鳥たちが襲ってこない射程外へと飛びすさった。


/ 107ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp