【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第5章 懐疑
個性の違法研究。その言葉がどういうことを意味するのか相澤はよく知っていた。そういう研究の餌食になった人間はほとんどが肉体的に耐えきれずに死ぬということ、よしんば生き残ったとしても、重い後遺症やPTSDでまともな生活が送れないようになることも。
……だがそんな非人道的なものが横行していたのは十数年前も前の話だ。そうした違法な個性研究への取り締まりは昨今とみに厳しくなり、最近では事件数もめっきり減ったはずだ。専用の孤児院を設けなければならないほど多くの子どもが、違法研究の犠牲になっているとは到底思えなかった。まして、転校生がその犠牲者の一人であるなどと言われても、俄には信じられない。
「まァ、違法研究なんて今に始まったことじゃないですけどねえ。個性がこの世に発現してよりの伝統、とでも言うべきでしょうか……もしかして、平和な今の世の中ではそんなものがまかり通るわけがないと思ってます? まァそう思うのも無理はないでしょうが、実状は違うんですよねえ。警察やヒーローの権限が大きくなり監視が厳しくなった分、そこの網目を一度くぐってしまえば最早止める者など誰もいない。網目をくぐるにはどうしたらいいか。まァ簡単に言えば収賄、汚職、ですよね。知ってます? 昔は警察内部に、捕まえた犯罪者や保護した子どもを違法研究所や敵に売り飛ばす人材トレーダーがうじゃうじゃいたのを。昔ほどではないですが今もいますよ。あろうことか、仕事にあぶれ金に困ったヒーローがやった、という事例もあります。寄生虫のように湧いてくるんですよ、ああいう連中は」
まるで相澤の心理を見透かしたように白銀は語った。それが嘘か本当かの区別はやはりつかない。ただ揺らぎのない静かな瞳が弧を描き、栗色の髪の間からこちらを窺ってくるだけだ。
「警察やヒーローだけじゃないですよ。そういう違法な研究所には、往々にして政府の上役が一枚噛んでいることが多いんです。個性研究は金になりますからね、おかげで敵団体も誰それ議員も皆こぞって違法研究所に出資する。組織の上層部が絡んでいるから検挙することすら難しく、やっとこさ潰してもまたすぐに新しい施設が建てられる。まさにいたちごっこというわけです」