• テキストサイズ

【 文スト 】- 短編集 -

第1章 記憶喪失









----------------------






───── 消毒液の香り。






漸く目を覚ました中也との暫しの沈黙。

視線を絡ませているのも関わらず、
声を荒らげる所か悪態すらも吐かず、

ただ目の前に居る元相棒は私の顔を見詰めていた。


「 … どうしたんだい ?」

太宰は思わず問い掛けた。

「 ………………… 」

然し矢張り彼からの返答は無いままだ。
どうしたのだろう。


「 …ココは、どこだ。 」

「 ── へ?ああ、ヨコハマの病院だよ。」

「 … 病院。じゃあ、」


『 手前は誰だ 』

「 ──── へ? 」

ちょっと待って。漸く口に出した科白がそれ?


「 もー冗談辞めてよ、」


「 …… 」

___嘘でしょ。

君の中から太宰治という一人の人間が
消え去ってしまったとでも言うのかい。

そんなの、私はっ、……私は。

「 私の名前は太宰治。君の元相棒じゃないか。…本当に忘れてしまったの?それとも何時もの嫌がらせ?」



「 …悪い。思い出せないんだ。何もかもが。」

其の一言を告げる彼の表情は実に現実的なもので。
ああ、これが俗に言う‘記憶喪失’の類なのだと、
太宰治は思案するしか他に思い付かなかった。


「 … でも安心しろよな!俺たち相棒だったんだろ?ならきっと直ぐに思い出す、はずだから、…だから、」

そう、ただ泣きながら告げて来る中也を、
中也であって中也では無い元相棒の姿を、

私もまた、ただただ微笑みながら、

「 そんなに急がずとも大丈夫だよ。 」

と、見ている事しか出来なかった。






-----------------------



END.
/ 2ページ  
エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:なごんだエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白い
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp