第7章 summer memory②
それは、7月のある日の夕方・・・
ーーー・・・
梅雨明けをテレビで発表したのは昨日。仙台にも夏が来た。
セミが少しずつ鳴き始め、夏を感じさせる。
私は叔母さんにお使いを頼まれ、近くのスーパーでの買い物を済ませて夕焼けに染まる坂道を登っていた。
(今でも蒸し暑いけど、昼間はもっと暑くなるんだろうなぁ・・・)
黒のシャツの首元がしっとりと汗ばむ。ハンカチで拭いながら、やっと上までたどり着く。もう少し歩けば我が家だ。
買った荷物を持ち直し、残り僅かな道をセミの鳴き声を聞きながら歩く・・・
角を曲がった所で、我が家が見える。そこで、私の足は止まった。
家の前に、誰かいる。女の人だ。
白いワンピースから覗く綺麗な手足、艶のある長い黒髪は腰あたりまであって、夏のぬるい風になびいていた。
家を見上げるその横顔は、まるで女優さんみたいに綺麗だった。
そんな芸能人のように綺麗な彼女は、何かを両手で持っている。
「あの・・・」
恐る恐る、私はその女の人に近づいた。
「え・・・?」
女の人は驚いた顔をして振り向いた。
わぁ、正面から見ると、もっと美人だ。
大和撫子って感じ。街中じゃ・・・そこそこ見れないくらいの美人だった。
「この家に、何か御用ですか?私一応、この家の住民でして・・・」
「あ、そうなん、ですね・・・」
か弱そうな控えめな声で女の人は話す。ちらりとその手元にあるものを見ると、1枚の白い手紙だった。
「その手紙、誰かに渡すんですか?」
「あ、えと・・・はい」
何故か、バツの悪そうに目をそらす女の人。その顔を見て、私の中の女の勘が冴えた。
きっと・・・及川さん絡みの人だ。
何となく、何となくだけどわかる。
「徹さんに・・・これを、渡してほしいんです」
"徹さん"・・・
やっぱりね。きっとこの人は及川さんと何かあったんだろうな。
その名を口にした女の人は私にその手紙を差し出した。私はそれを受け取ると、女の人と手紙を交互に見た。
「あの、お名前は・・・」
「その手紙を渡せば、差出人が私だとわかると思うので・・・では、よろしくお願いします」
深く頭を下げて私に手紙を預けた女の人は、近くに止まっていた車に乗り込んで去っていった・・・
後に残されたのは私と・・・
この手紙だけーーー・・・