第6章 summer memory①
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梅雨入りした六月のとある土曜日の夜、私はキッチンで夜ご飯のハンバーグを作っていた。
「ただいまー」
「あ、おかえりなさい」
リビングの扉を開けて、練習終わりのジャージ姿の及川さんが顔を出した。
「あれ?玄関開ける音聞こえなかったな・・・」
「どうせでっかい声で歌でも歌って聞いてなかったんじゃないの?あ〜疲れた〜」
「そんなキャラじゃないですよ〜」
私の返答を聞きながら、及川さんはソファーにどっかりと腰を下ろした。
「いてててて・・・」
最近、チームはトレーニング期らしく練習の半分は筋トレをしている及川さんは、連日筋肉痛でどの動作をする時もこうして痛がる様子を見せている。
「全然筋肉痛とれないね」
「そりゃあ月、金、土曜日に筋トレしてるからね。お陰でこの夏も、女の子にモテモテな体格になれそうだよ」
テレビを付ける及川さん。液晶にバラエティ番組が映ってる。あ、私の好きな芸人が出てる・・・見たいけど、ハンバーグ焦げちゃうから我慢我慢。
「りお、俺のリクエストした和風ハンバーグは?」
「ちゃーんと大根おろしもすって用意してるよ。大葉も買ってます」
「やったー!最近あっさりしたもんも好きになってきたんだよね〜、歳のせいかな?」
及川さんはあからさまにご機嫌な顔をして、でも時折、筋肉痛に顔を歪めながらテーブルの席についた。
春先から始まった、私の夜ご飯のリクエストは今も続いている。大体は及川さんのリクエスト通りに作るんだけど、たまにおつまみ的な感覚でサイドメニューに何か出してあげると、それを気に入って今度はそれをメインディッシュにして欲しいなんて言うし、相変わらず及川さんは自由人だ。
(まぁ、聞いてあげる私も、いいんだか悪いんだか・・・)
・・・悪くは無いか。自分の好きな料理作りを、美味しい美味しいと言って食べてくれるから、WIN-WINの関係ってやつなのかなきっと。
それに・・・私の作ったご飯を食べている及川さんの顔を見るのが、最近の楽しみだったりするんだよね・・・って、何、乙女みたいなこと言ってるんだろ。
叔母さんの誕生日をお祝いしてから、及川さんとの間に壁が無くなってからかな?何かちゃんと及川さんって人と向き合って生活している気がする。