第5章 spring memory⑤
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「及川さん!火加減強すぎてない?」
「あ、やっぱり?どうも焦げ臭いなって思ってたんだよね〜」
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「うぅっ、りお、涙が止まんない〜」
「及川さん!玉ねぎ切る時は、口開けて切ると泣かないで切れるよ!怪我するから涙拭いてっ」
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「生クリーム混ぜんのってこんなきっついの!?」
「電動泡立て器が見当たらないんで仕方ないね。ほら、ファイトファイトっ!」
・・・・・・とまぁ、一品一品作るごとにハプニングなどがあったけれど、何とか私達は料理を完成することが出来た。
今は、焼けたケーキのスポンジに、及川さんが腕が吊りそうになりながら混ぜてくれたホイップクリームを塗って行く作業を二人でしている。
先程までドタバタとしていたキッチンはクリームを塗るという作業のお陰で静かな時を過ごしている。
「俺、一からケーキ作ったの初めて」
「そうなの?結構クリームまんべんなく塗るの、難しいでしょ?」
難しい、と言うように首を屈めてホイップクリームをまんべんなく塗ろうと奮闘している及川さんの姿を見ると、少し子供っぽくて可愛いと思った。
「お前って本当見かけによらずこういうの好きなんだね」
「見かけによらずは余計だけど、うん、好きだね。どっかの誰かさんは毎回夜ご飯のリクエスト細かいから応えるのに一苦労してるけどね〜」
すると、及川さんはクリームを塗る手を止めて、私の方は見ずにぽつりと言った。
「食べるなら、美味しいもの食べたいって思うから仕方ないじゃん」
「え・・・?」
私は及川さんを見る。及川さんは、自分で言ったことに、少しだけ照れくささを覚えたのか、頬が赤くなってる。
(美味しいって思ってくれてるんだ・・・)
いつも喜んで食べてくれているけれど、改めて言われると、照れる。相手は及川さんだけど。
「ほら、ぼけっとしてないで早くサンドする苺切ってよね」
照れくささを隠すように不器用に言葉を放つ及川さん。私は彼にバレないように微笑んだ。
「はいはい」
そして、パックから取り出した苺を切り始めたーーー・・・