第5章 spring memory⑤
その聞き覚えのある声に、私と及川さん、二人同時に振り向く。
「国見くん!」
「国見ちゃん!」
そこに居たのは、いつもスーツ姿じゃなくてラフな白シャツとジーンズ姿の国見くんだった。
「お疲れ様です」
相変わらずマイペースな国見くんは、いつものように眠そうな顔でぺこりと会釈した。
「国見ちゃんも買い物?」
「はい。コーヒー豆切らして・・・買いに来ました」
と、買い物かごの中のコーヒー豆の袋の束を指す。あ、それ、美味しいメーカーだ。
「二人で買い物って・・・仲良いんですね」
「仲良いっていうか、今うちに居候してんだよね」
しれっと同居している事を話す及川さんに、特に驚く素振りも見せずに国見くんは私を見た。
「ふーん、そうなんですね」
「ご、ごめん、何か言うタイミングなくて・・・」
「いや、別に言う義務も無いしいいんじゃない?」
と、淡々と話す国見くんは通常通りだ。
「で?二人で何かご飯でも作るんですか?」
「そ。母さんの誕生日に、晩御飯作ることになってんの。国見ちゃんも来る?!」
「あぁ、及川さんのお母さんの・・・。久しぶりに会いたいんですけど、俺、明日接待で青城のインハイ予選見に行かなくちゃいけないんです」
"せいじょう"・・・?聞いたことないフレーズだ。
「せいじょうって?」
きょとんとして私は及川さんと国見くんのデカデカコンビを見上げる。
「青葉城西って、俺と及川さんの出身の高校だよ。で、明日はインターハイ予選なんだ」
「インターハイって、全国大会だよね?それに繋がる試合ってこと?すごい!そんな大会に出場してるなんて!」
「いや、予選は誰でも出れるから・・・」
一気にテンションが上がった私を、及川さんは少し笑って見下ろした。
「そ、そんなもんなの?」
「ま、順調に行けば明日で準決勝までは進めますね。今年、結構いい選手揃ってるみたいなんで、良かったら来ませんか?夕方までには終わると思うんですけど」
国見くんのお誘いに、及川さんは少し考えたあと、頷いた。
「そうだねぇ!岩ちゃんもいるし、久々に後輩ちゃん達のプレー、見に行くかぁ!」
そう言った及川さんの横顔は、嬉々としていて、楽しみに胸を躍らせているようだった。
「りおも行こうよ。どうせ昼間暇じゃないの?」