第28章 1 years later①
「ふふっ」
《え、なに、怖いんだけど》
「なんでよ」
顔が見えなくてもわかる。及川さんは顔をひきつらせてる。
《いきなり笑い出すからじゃん》
「いいじゃない。清い乙女の妄想よ」
《ふっ、清い乙女ねぇ・・・》
及川さんが、吹き出したのが分かった。
もう、また何か意地悪なこと言うつもりだ。
「でもね?」
それを言わせないように、私は口を開いた。
《ん?》
「及川さんが帰ってきたらやりたいこと、沢山あって選べないけど・・・」
今、ここに及川さんはいない。
あるのは、私と及川さんの目に見えない繋がりだけ。
どこへ行ってもいい、何をしてもいい、
何もしなくてもいい・・・
「ただ、及川さんがいてくれるなら、私はそれだけでいいかなっ」
だから、あなたがここにいてくれるだけで、
私は何よりも嬉しいし幸せを感じられるから。
なぁんて、本当に私、
この1年でこんなに素直になっちゃったな・・・
側にいないと、自分の気持ちに素直にならなくちゃ、伝えきれないことがある。
温もりに触れられない分、言葉でしか伝える術がないから・・・
《ふうん・・・やけに素直じゃん》
「たまには、ね・・・。今日はほんと、気分がいいの」
でも本当はね、・・・一番したいことがあるんだ。
それは、帰ってきたあなたの胸に飛び込んで、思い切り抱きしめること。
温もりに触れて、もう離れない〜ってくらいぎゅって腕を回して・・・それで・・・
もう一度、あなたに好きだと伝えたい・・・。
寂しくて、切なくて、頑張れない日もあった。
でも頑張る理由が、あなたに会うためだったから、
私、今日まであなただけを想ってやってこれたよ。
「ね、及川さん・・・。帰ってきたら、私及川さんに言いたいことがあるの」
だからそれを一言、好きの二文字にのせて伝えたい・・・。
私の今までのあなたへの気持ちを・・・
《俺に・・・?》
「うん・・・」
叶わなくたっていい・・・
でもこの想いに蓋をすることはもうできなくて。
もし二人が出会う場所が違っても、
もし一緒に住んでいなくても・・・
億千のめぐり逢いの中で、
きっと私、あなたに恋してたから・・・
こんなに誰かを愛しく想えた事が、
どれだけ素晴らしいか証明したい・・・