第28章 1 years later①
《1 years later》
及川さんの居ない日々に慣れるのには、正直時間がかかった。
だって、ずっと、何をするにもどこへ行くにも、
彼は隣に居てくれたから。
特に及川さんがイタリアを経って1ヶ月は、その反動が強くて、
3人で暮らした家や、会社、一緒に行ったスーパーにまで、思い出が転がっていることに気づいた・・・。
いつも日曜のオフの日の朝は、ランニングに出かける及川さんの足音が聞こえないから、イタリアでもちゃんと走ってるのかな、とか・・・
会社でうちの部署に来ると、職員みんなに囲まれて色々と話をする光景も無くなって、イタリアではちゃんとみんなとコミュニケーションとれてるのかな、とか・・・
あのスーパーの小さな野菜コーナーで、夕飯のサラダにトマトとパプリカは入れるか入れないかって言い合って喧嘩したな・・・
イタリアではそんな野菜しょっちゅう出るのに大丈夫かな・・・とか・・・
気づけば及川さんの事ばかり考えていて、そして隣にその姿が無いことに、胸がポッカリと空いた気持ちを感じていた。
だけど、前を向いて、進んでいかなくちゃ。
あっちで及川さんも頑張ってるんだから・・・
いつまでも思い出に縛られてちゃ、ダメだよね・・・
そう思って、日々を過ごしていくうちに、
及川さんを思い出して切なくなることは無くなった。
私は私なりに忙しくしていたし、
たまにかけて来る及川さんの電話が私の元気の源になっていたから。
最初の方は及川さんも、初めて海外のチームに混ざってプレーする事でコミュニケーションが上手く取れなかったり、文化の違いに戸惑って、疲れた声がして心配だったけど・・・
ものの短期間でチームの一員として徐々に馴染めてきたと電話が来た時は、やっぱり流石だって思ったし、声はいきいきとしていた。
バレー以外の部分でも、プライベートは充実してるようで、こないだ初めてイタリア人のファンからのファンレターを貰って喜んでるあたり、そしてそれを私に報告してくるあたり、相変わらずだなぁ、なんて思ったりした。