第24章 Winter memory⑤
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その日は結局、仕事に身が入らずに呆然と取り組んでしまった。
今日は各部署へ先日のリーグの結果を報告に回っている国見くんがいなかったから特に。いたら確実にデコピンされていただろうな。
でも、もしそれがあったとしても、頭の中は社宅の事で頭がいっぱいだった。
新しい家が出来たらそこへ移り住む。当たり前のことなのに・・・
春先、ここを訪れた時、そのつもりでお世話になった筈なのに。
「離れたく・・・ないなぁ・・・」
家に帰って、魚が煮えるのを取り込んだ洗濯物を畳みながら待っていた私の頭の中では、3月から今日までの間、この家で出来た思い出が蘇ってきていた・・・
カラオケボックスで最悪な出会い方をした及川さんとここで再会したり、
会社の飲み会で二日酔いになった日は及川さんがしじみの味噌汁を作ってくれたり、
逆に及川さんが酔っ払うと、私を布団の中へ引きずり込んだり・・・
あぁ、雨の中、ずぶ濡れになって及川さんが帰ってきた時もあったなぁ。
夏、叔母さんが私の為に浴衣を着付けてくれたり、
叔母さんの誕生日に、及川さんと二人でご飯やケーキも作ったことがあった・・・
いつの間にか他人の域なんて超えていて、ここで過ごした日々が宝物のようにキラキラと輝いて蘇った。
それがもう、無くなってしまうと思うと、胸にぽっかりと穴が空いたような喪失感が芽生える。
(でも・・・仕方ない。仕方ないことだよね・・・)
溢れそうな思いを堪えて唇を噛む・・・
すると・・・ーーー
ガチャガチャ・・・
「ただ〜いま〜!」
玄関の鍵が開く音と、叔母さんの声が聞こえた・・・
私は弾かれるように玄関へと駆け出した・・・