第19章 Autumn memory⑤
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あれから、何事もなく二人分のオムライスを完食した及川さんは自室に戻って、私も寝に行こうと思ったんだけど・・・
やっぱり彼のことが気になって、再び彼の部屋の前に来ていた。
彼は、辛いことがあっても・・・平気な顔して笑うのが上手いから・・・小さな変化を見逃してしまうと、離れていってしまう気がして。
「及川さん・・・まだ、起きてる?」
控えめにそう呼びかけると、返事もなく襖が開いた。
そして、スウェット姿の彼が顔を出した。
「どーしたの。ひとりじゃ怖くて眠れない?」
・・・どうしたのじゃないし。
「・・・うん」
「え・・・?」
私はきゅっと、及川さんの指を握った。
ピクンと、及川さんの指が震える。
「りお・・・?」
「及川さんが心配で・・・眠れない」
今どんな思いでいるの?
心は乱れてない?
悲しくない?
「無理して笑わなくて・・・いいんだよ・・・」
そばにいたい・・・そんな事しか出来ないけど、私・・・。
「誰も見てないから、及川さん」
ここには、あなたと私のふたりだけ・・・
「・・・・・・・・・」
及川さんは、表情を消した。
怒ってるわけでも、悲しんでるわけでもなく・・・
本当に無の表情で、私を見下ろした。
・・・怖くは、なかった・・・。
「・・・入って」
及川さんに言われるまま、私は彼の部屋へと足を踏み入れた。
及川さんは布団に座り、ぽんぽんとその隣を叩く。
え・・・
一瞬、足が止まる。
思い出すのは・・・
たった一度、彼と結ばれたあの夏の日の記憶・・・
「大丈夫、・・・側にいてほしいだけ」
「・・・分かった」
ぽすっと布団の上に乗り、足を崩して座ると、及川さんは真っ直ぐに私を見た。
すっと透き通った綺麗な瞳が、私だけを映す・・・
「・・・目、閉じれる?」
及川さんに言われるまま、私は目を閉じた・・・