第2章 spring memory②
「ご馳走さま」
奴はパスタを食べ終わると流し台へ使った食器を持っていく。
「あ〜徹、そこ置いといて〜」
「いいよ、練習までもう少し時間あるし」
慣れた手つきでスポンジを泡立てて食器を洗っていく。袖を捲った腕に浮かび上がる筋が逞しい、なんて、思ってしまった私はぶんぶんと首を振った。
「あらそう?じゃあお願いね!お母さんちょっとトイレ行くわ!」
と、謎のトイレ報告を入れてくれる叔母さん。叔母さんの姿が見えなくなると、ちらりと彼が目線だけを上げた。
「まさか君がうちに住む子だったなんてびっくりしたよ」
君がってなんですか。君がって。
まぁ、そりゃあ良い気はしないでしょうね、お互いに。
しかし、ふつふつを苛立ちを見せる私を他所に、彼は口端を上げたまま・・・。
蛇口から水の流れる音だけが二人の間に響く。
「あ、これから一緒に住むことになっちゃったし、一つ忠告しとくね」
そう言って、彼は人差し指を立てて見せた。
「ここで暮らす以上、俺のこと、好きになんないでねっ」
と、とびきりの笑顔を浮かべる。
「はぁぁぁ!?」
なに、こいつ、本当頭どうかしてんの!?
「する訳ないです、絶対、有り得ないから!」
「そう?じゃあ安心だね♪これから宜しくね、りおちゃん♪」
「宜しくするか!」
濡れた手で握手を求めようとする彼に、嫌悪感が限界に達した。
「あらあら、早速仲良しなのね〜」
なんて叔母さんののどかな声が聞こえたーーー・・・