第11章 summer memory⑥
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あれ以来、及川さんは奥さんの話をしない。そして私たちの関係が特別変わることはなく、私は普通のOL、彼はバレー選手としての仕事を全うしながら、同居生活を送っていた、そんなある日、吉報が舞い込んで来た・・・
「え、青城インターハイ出場!?おめでとうー!凄いねっ!」
八月間近、毎日の陽射しのきつさにも慣れてきた頃、汗をかきながらリビングの掃除をしていた私に、妙に上機嫌な及川さんがやってきて知らせてくれたのは、彼の母校である青葉城西高校がなんとインターハイ・・・全国大会に出場するというものだった。
「まぁーね!俺の岩ちゃんがコーチしてるんだし、当然っちゃ当然だね」
そうやって言う及川さんの顔は、心底嬉しいようで、顔の緩みが隠しきれていない。全く素直じゃないんだから。
「インターハイって、県内で1チームしか代表で出れないんでしょ?それに出られるって本当に凄いことだと思うよ」
首に巻いたタオルで汗を拭って、私は拍手する。そんな私を満足そうに及川さんは見下ろした。
「俺らの代も、全国出場まで後一歩って所まで行ったんだけどね、その当時、目の敵にしてたチームにはずーっと勝てなかったんだ」
「そうなんだ!青城以外にも、強い高校があったんだね」
「そ。今も変わらず強豪だろうけど、それ以上にうちの後輩たちが頑張ってくれたみたいで、ウレシーね!」
万歳!と両手を上げたくなる気持ちがあった。
一度インターハイ予選の試合を見に行った時、本当に魅力的なチームだと思ったから。
「全国で、1勝でも多く勝てるといいね!」
「それなんだけどさぁ・・・」
途端に及川さんの表情が曇る。私は首を傾げた。
「どうしたの?」
「一日目の、予選リーグでの対戦相手はもう決まってて、相手チームの特徴としてサーブがすっごく良いらしいんだよね。で昨日岩ちゃんから電話が来て、時間があったら青城の後輩にサーブ打ってくれって頼まれちゃったんだよねぇ。やっぱ俺ってスターだから皆に必要とされて嬉しい反面、困っちゃうよねぇ〜」
最後のはすっごく余計だったけど、とにかくあの岩泉さんからの頼まれたことも嬉しそうだった。
「そうなんだ、でも、母校の折角の晴れ舞台の為だし力になってあげたら?」
「勿論そのつもりだけどさ」
及川さんは私のことを指さした。