第1章 spring memory①
ーーー・・・
(3丁目・・・確かこの角曲がってすぐに・・・)
昨日と同様、晴天。キャリーケースを転がしながら住宅街をスマホをナビ代わりにしながら歩く。
「あ、あった・・・」
探し求めていた表札・・・及川の名前を見つけるとほっと胸をなで下ろした。
ここが、お母さんの妹・・・及川叔母さんの家だ。
私の・・・新しい我が家。
ここでの生活をとても楽しみにしていた。
昨夜とは違ってウキウキした気持ちで、玄関の横のインターフォンを鳴らす。
「はぁ〜い」
あ、よく知ってる、叔母さんの声が家の中からする。
インターフォンが点灯し、
《りおちゃんね!はい、はいっ!今開けるから待っててね!》
そう返ってきた。
「ごめん、ちょっと手はなせないから、出て〜!」
何だか慌てている。大丈夫かな?
そんな心配をよそに、暫くすると扉がゆっくりと開いた。
それと同時に、門扉を開け、キャリーケースを持ち上げて敷地内に入る。
丁寧に門扉を閉め、改めて玄関に向き直る、とーーー・・・
「え・・・?」
目の前に、有り得ない光景が広がっていた。
ドアノブに手をかけ、玄関の扉を開けている人物・・・
私が"彼"を驚愕の目で見ているように、"彼"も私を驚きの眼差しで見つめていた。
「なん、であんたが此処に・・・!」
絞り出すように言った言葉に、彼は、視線を逸らしポリポリと頬をかく。
「あー、そういうことね・・・」
どういうこと!?
その頬はほのかに腫れていて、何故腫れているのか、私は理由を知っている。
彼は、昨日私に無遠慮にキスしてきた変態男だった・・・
「あらぁーっ!りおちゃんいらっしゃーい!」
ピリッとした空気をかき消すように、朗らかな声が家の中から聞こえる。
彼の後ろからひょっこりと顔を出したのは、私のよく知る及川叔母さんだった。
「叔母さん、この人・・・」
「あら?会うの久々だったかしらね!いつもバレーばっかりで会えてなかったものね!」
叔母さんは、彼の隣に立ちにっこりと微笑んだ。
「覚えてるかしら?息子の、徹よ〜ん」
息子・・・・・・
ん?ということは・・・・・・
「わた、しの・・・従兄弟って事ですか?」
震える指で失礼にも彼を指す。
「そうよ♪今、徹もこっちで住んでて、仲良くしてね♪」