第9章 summer memory④
《及川side》
ーーー・・・
ガラッ
ノックもせずに扉が開く。当たり前だ、ここは、岩ちゃんの部屋だから。
「ウジ川」
「ウ、ウジ・・・?ウジ川は初だね」
「いつまでもウジウジしてっからウジ川だ、ボゲ」
相変わらず辛口な口調で岩ちゃんは俺に言い放つ。
「・・・確かに、ほーんといつまで考え込んでんだかね」
岩ちゃんのベッドで仰向けに寝転がりながら天井を仰ぐ。するとその視界に、岩ちゃんの腕が入り込み、
「あいたっ!」
額にデコピンされた。
「今からりおのこと送ってく」
「・・・そう」
りおが岩ちゃんを訪ねてきたのは知っていた。
踏み込むなって、関係ないって散々酷いことして遠ざけたから、正直驚いたけど、俺がここにいるってことは岩ちゃんには内緒にしてもらった。
顔・・・合わせらんないな・・・
こんな、何も整理できてない気持ちじゃ。
「及川」
「・・・ん?」
低い、声。岩ちゃんは真っ直ぐに俺を見つめて言った。
「これはテメェの問題だがな・・・、テメェひとりで解決しようなんて、思うなよ。・・・お前を待ってる人は、ちゃんといる」
俺は目を丸くした。
・・・・・・全く、ほんと、困るよ。
世界中の女の人を信じられなくなっても、岩ちゃんの言葉ならきっと信じれる。
「俺、来世は岩ちゃんと結婚しようかな」
「死んでもごめんだ、クソ川」
辛口な岩ちゃんは一階へ降りていった。
程なくして岩ちゃん家の駐車場から車が出ていくのがベランダから見えた。開けた窓から、夏のぬるい風が前髪を揺らす。