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ダーリン私に触れないで

第2章 筆記用具



 秋也は有の大学の同級生である。

 入学式当時、秋也はすでに、その見目のよさで周囲の女子から注目を集めていた。
 彼の飾らない性格、文武両道の能力の高さが知られていくと、人気はさらに高まった。同学年では知らない人間はいないくらいの有名人だった。

 一方有は、いつもニコニコと笑顔を絶やさず人付き合いのよい性格で、男女問わず友人は多かったが、特別目立つ存在ではなかった。

 秋也がそんな有のことを知ったのは、とある講義がきっかけだった。

 筆記用具を忘れてきた、と気付いた秋也に、たまたま隣席に座っていた有が、シャープペンシルと消しゴム、それにライン引き用の赤ペンまで貸してあげたのだ。

 秋也は、「なんて用意がよくて優しい子なんだ」と感激した。ちなみに秋也が普段持ち歩いている筆箱には、ボールペンが1本入っているのみである。
 有が講義中にダラダラしたり、友達とおしゃべりし出すことがなかったのも、秋也には好印象であった。「なんて真面目な子なんだ!しかもノートが凄くキレイにまとめてある!」と思った。なお、秋也がノートとして使っているのは、その辺のプリントの裏である。


 秋也が通っていた高校は、それほど勉強熱心な学校ではなかった。
 つるんでいた友達も、勉強より部活を優先するような人間ばかりだった。
 秋也は地頭のよさだけで大学に来たようなものだ。そんな彼にとって、有は驚くほど真面目で立派な人間に見えた。


 秋也は昔からモテてきたが、それだけに、自分の外見に惹かれて寄ってくるような女子にはウンザリしていた。だから自分も、女子を外見で選びたくはなかった。いつか付き合うのなら、人間的に尊敬できるような女の子を選びたい、そう思っていた。

 そんな秋也だから、すっかり有に惚れ込んでしまった。

 彼女と連絡先を交換すると、講義の合間や昼食の時間に積極的に会いに行った。恋の駆け引きなど出来るはずのない性格だったから、1ヶ月後には「好きだ、付き合ってくれ」と告げていた。

 そして有はそれを受け入れた。
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