第145章 ひとつの布団
「我が儘言っちゃ駄目でしょ。明日も早い」
言い聞かせる様な声
しかしそこには僅かに私を遠ざける意図が含まれている様な気がしてもう一度彼に抱き付いた
「……ちょっと」
私が抱き付いたままなら彼は眠れない筈だ
まだ話したい事が沢山ある
まだ彼の声を聞いていたい
まだ今日の余韻に浸っていたい
まだ明日になってほしくない
どう抗ったって仕方の無い我が儘ばかりが頭を占めていて彼の温もりに安堵する一方悲しくて仕方がない
そんな時だった
私の身体はいとも容易く反転し、気が付けば彼に押し倒されていた
交わる視線は熱っぽく私を射抜く
しかし彼が色香を漂わせたのはほんの一瞬の出来事で
彼は掛け布団をやんわり掛けると私の隣に横になり後ろからぎゅっと抱き締めた
「イルミさん……?」
「……沙夜子は本当に世話がやけるね。これで起き上がれ無いでしょ。眠るよ」
耳元に聞こえた彼の声は優しくて先程迄の僅かな拒否も一切感じさせない物だった
「お、おやすみなさい」
こんな事をされては抗う事なんて出来る筈が無く大人しく告げれば
クスリと笑みが聞こえて
「おやすみ。」
彼は何時もの声色で言った
ドキドキ騒がしい鼓動はきっと彼の耳にも届いてしまっていて
彼は其れに気付いて笑ったのかもしれないなんて思うと余計に緊張してしまって私は只彼の呼吸を感じていた
然り気無く近付けた布団は使われず彼と二人狭いひとつの布団で眠りに付いたのは随分と時間が経っての事だった