第141章 なんでもないヒトコマ
只待っていても彼と二人なら苦痛では無いが先程から空腹を感じて止まない
「何食べたいですか?」
「何でも良い」
私達はコインランドリーから程近い商店街の中にあるもつ鍋屋さんに入った
寒い冬にぴったりの鍋物で身体をポカポカにしたいと思ったのだ
サラリーマンで賑わう店内はまだ比較的早い時間帯なのに私達で満員御礼になった
私達は向かい合って鍋をつつく
私達が頼んだ醤油出汁の鍋はモツとニラの風味が良く染み出し口に含めばがっつりあっさりな味わいが広がった
「!美味しいです」
「だね。……モツ鍋……」
呟きながらもガツガツお代わりする彼は余程鍋を気に入ったのか二人前では足りず具材を追加注文したりした
私はその間酒が進み、すっかり暖まった身体はうっすら額に汗を浮かべる程にポカポカになった
「お腹いっぱいですねー!」
「うん」
店を出ると火照った身体にキンと冷たい風が吹き
寒さに上着の首元を引き上げる
「コンビニ寄りませんか?」
「うん」
店を出ると私達は洗濯物を乾燥機に移し、コンビニで酒類やおつまみを購入してコインランドリーで回る洗濯物を眺めながら乾杯した
「何か不思議ですね」
「何が?」
仕事終わりそのままの作業着に厚手のブルゾンを羽織った彼はウイスキーの瓶を片手に丸いパイプ椅子に座っていて
由緒正しき御家に生まれて暗殺という特殊な家業に奔走しているイメージとはまるでかけ離れていた
寂れたコインランドリーで酒を煽る姿はイメージとのギャップを生み不思議な感慨深さを抱かせる
「イルミさんがすっかり下町に染まってて不思議です」
「変?」
小首を傾げた彼が私の様子を伺う様に真っ直ぐな視線を向けるので
「いえ、案外しっくりですよ!」
「そう。」
そのままの感想を伝えた
寂れたコインランドリーには美し過ぎる彼だが少し汚れた作業着は労働の証で、私達の生活にはしっくり来ている様に感じたのだ
私の言葉を聞いた彼は満更でも無さそうに瓶を傾けてそっと視線を外した