第85章 夏の終わりの彼と私
夜22時頃、夕食と入浴を済ませた後に夢か幻か艶かしい出来事を思うとモヤモヤする気持ちを払拭する為に懲りる事無く酒を煽った私の提案により近所の公園迄出向いていた
「イルミさんー!早くー!」
「転ぶよ」
彼の先を走る私は静かな音を奏でる虫の声を聞きながら夏の終わりを感じる
まだまだ熱い日中だが夕方には沢山のトンボが飛び、僅かに秋の訪れを感じていた
しかし、彼との別れを思いたく無い一心で見てみぬふりを続けてきたのだ
……………………何時までも目を背けていたなら一瞬の内に日々は過ぎて行く
私は最後の夏の思い出にと手持ち花火を購入して彼を無理矢理に連れ出していた
「花火しましょう!」
手持ち花火を手渡す私に怪訝な顔を浮かべる彼
「花火って………空に上げるんだよね。こんなゴミが空に上がるの?」
「これは手持ち花火って言うんです!ちっちゃい花火なんですよ」
「……ふーん」
納得したのかしないのか解らないが手持ち花火を眺める彼の瞳は僅かに揺れる
私達は夢中になって花火を楽しみ
最後に線香花火に火を付けた
「………えらく地味だね」
「線香花火は風流なんですよ……夏の終わりって感じでしょ?」
2本目に火を付ける
「………沙夜子みたいだね」
「え、地味さがですか………」
「じゃなくて、直ぐに消えちゃうから」
「………あ、落ちた……」
じりじりと燃える小さな火花は呆気なく床に落ちて消えた
火薬の臭いが立ち込めて煙が私達だけを包む
(それはイルミさんじゃないですか…………)
なんて悲しい台詞は胸の中で何時までもぐるぐる回っていた