第59章 沢山の思い出を
一時間半程で到着したのは奈良県天川村
雑誌で見た通り自然豊かな光景に思わず歓声にも似た溜息が漏れる
車から降りると山深い緑の香りと川のせせらぎの音が清々しい
特に何をするとも決めずにやって来たがとにかく川を眺めに足を進める
綺麗に透き通った水は太陽光を反射してキラキラと光り観光にやって来た親子連れが足を浸けて遊んでいるのを見て水深が浅い事が解った
キャッキャッと楽しそうに響く声と水音に私もワクワクしてしまい
川原へ出る階段を早足で下る
流れる水面を間近に眺めていると本当に気持ち良さそうで手を浸けた
川の水はきんと冷たく、しかし強い日射しに火照った肌に心地好い
(…………ちょっと水遊びしたいかも……)
「私達も遊びましょう!」
「え」
「足浸けるだけ!」
「子供じゃないんだし我慢しなよ」
無表情に私を見遣り一歩下がった場所で立ち尽くす彼の声色には戸惑いが含まれている
お坊ちゃんの彼には庶民のちょっとした水遊びが理解出来ないのかもしれない
もしくは私が幼稚過ぎて引いているのか