Why大奥!?Trafalgar医院【ONE PIECE 】
第8章 ロー
暫く何かを考え込むかのように無言を貫いていたローが、ナツへ視線を合わせる。
「……ローだ」
「……名前ですか?知ってますけど」
突拍子のない自己紹介に首を傾げるナツ。
「呼び方の話だ。院長はもう止めろ」
再び交わり合う視線に、ナツはごくりと唾を飲んだ。
口元を吊り上げるローの表情は、何時ものそれに戻っていた。
ナツは呼び方云々の前に
その前に話した内容に思うところもあり、少し迷うように瞳を彷徨わせた。
さっきの私の発言はスルーされたという事で合ってるんだろうか。
なんかめっちゃ自滅した感あって恥ずかしいんですが。
院長は……いやローは、さっきの言葉をどんな思いで聞いていたんだろうか。
気にはなったものの、ナツはあえて自滅を決定付ける必要もないかと思い留まり、掘り下げるのをやめた。
そして彼からの痛い程の視線に込められた、催促に応じるように
そっとその名前を口にすると
彼の表情が少しだけ、和らいだような気がした。
「…あぁ、そうだ。ケーキ、好きなだけ食え。旨いぞここのは」
「まじっすか!」
何事もなかったように再会される会話。
好物らしいモンブランの文字をメニューの中に見つけ、顔を綻ばせる彼女。
注文した数量は6人前。
店員は個室に二人しかいない割に注文された多すぎる数に耳を疑ったのか、三度程数を聞き返していた。
好きに食えとは言ったものの、この細く小さな体のどこにそれだけの量が入るのかと呆れる気持ちが起きないでもない。
しかしその姿を、どこか微笑ましく思いながらローは見ていた。
過去に捕らわれるのはもう止めた。
これからはナツ自身を見て、その言葉を聞いて、考える。
“彼女の生まれ変わりだから”ではない。
そんな過去がなくても、ナツはナツなりに
俺を理解し支えようとしてくれている。
煌びやかな夜景が美しいその一室で
2人は会話を弾ませながら、食事を楽しんでいた。
2人の、“ナツとローの物語”は、ここからまた始まったのだ。