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【イケメン戦国】短編集✲*゚

第1章 【織田信長】恋に揺蕩う




「…わぁっ…!!」


声を失う迄に、その景色に見惚れる私を信長様が優しい瞳で見つめている。それに気付いて、気恥ずかしくて開いたままだった口を噤んだ。

緩やかな坂を手を引かれて上ってきた、町を抜けた少し小高い丘の上。眼下には町の灯りと、沈み行く夕日。そして向こうに聳え立つ安土城。まるで一つの絵画の様に、気忙しい夕方だと言うのに静かに佇んでいる。

優雅で荘厳で、しかし何処か物悲しい雰囲気に息を呑む。自分でも読み解けない複雑な感情で、胸がいっぱいになって。傍らで風に揺れる信長様の袂を摘む。


「信長様、ありがとうございます」
「これしきの事、礼には及ばぬ」
「…そうはいきません。今まで生きてきた中で、一番綺麗な風景を見れましたから」


信長様が作り上げてきた物、これから守っていく物を目の当たりにした。彼の肩には沢山の人の人生が背負われて居るのだ、と気付いた。それを重荷とも思わせず、飄々と、たまに寄り道しながら、楽しげに歩いていく様を見た――


「――そうか。俺も此処からの眺めは気に入っている。また連れてきてやろう」


何処か嬉しそうにそう言った信長様に、じんわりと込み上げてくる温かい気持ちの正体を考えながら、今日一日で当たり前のようになった、差し出される手を取る。元来た道を辿るように、城へとゆっくり歩いて帰る。夢の様な一日の終わりを感じて、少しずつ足取りが重くなる私を、信長様が引っ張って行く。

そうして気付いた時には、もう城の中ほどまで戻っていた。繋がれた手を、自ら解く。振り返った信長様に、上手に笑えているかは分からないけれど、笑って見せた。


「信長様、お忙しい中お時間を頂き、有難うございました」
「…ふん、随分しおらしくなったな。初めはあんなにいやいやと駄々を捏ねていたが」
「それ程、楽しかったのです…本当に、有難うございました!」


名残惜しさを断ち切るように、くるり、と踵を返す。そうして歩き出そうとした所で、また信長様に手を絡め取られた。驚いて振り返る…鋭い紅の瞳に、射抜かれそうな錯覚を覚える――

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