第5章 【徳川家康】日和姫
春麗らかな、桜舞う安土の町を。
豪奢な籠が、弾むように駆けていく。
その雅やかさに、町行く人々は頭を垂れながら、誰ぞ高貴なお方が乗っているのか、と口々に噂する――
「浅井様奥方、お市様、お着きになられました!」
城門から響く合図の銅鑼の音に、にわかに城内が沸き立つ。
天主でその慌ただしさを耳に拾いながら、信長はふわり、と、自らも気付かないほどの小さな笑みを浮かべた。
向かいに座している秀吉と光秀、家康も、その表情の変化に気付き。
張り詰めていた報告の議の雰囲気が、少し和らぐ…
その理由の知れない政宗と三成は自然と顔を見合わせ…アイコンタクトで、分からないな、分かりませんね、と会話を交わした。
「今日の軍議は終いとしよう」
「そうですね、お館様」
「…終い、でしょうか?」
「珍しく、随分と短いな」
三成と政宗の疑問めいた声に、光秀はくつくつと小さく笑う…家康は、まるでヒントを出すかの様に、小さく呟いた。
「…正しくは、終いにせざるを得ない。もうじき続けてる状況じゃなくなる、んだけどね」
そして、高揚した気持ちを押し隠すように、ため息をついた――