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【イケメン戦国】短編集✲*゚

第1章 【織田信長】恋に揺蕩う




「わあっ…」
「これが、この安土が誇る市よ」
「すごい、すごいですっ…!!」


色とりどりの野菜や果物が並ぶのを、並んでみて歩く。店子が安いよ、見ていってよ、なんて呼びかける大きな声や、勝手知ったる人達が談笑する声、あちこちが活気で溢れている。


「わ、信長様見てください!すっごく大きな鯛!」
「ほう、伊勢の海の物だな」

「こっちは、凄く綺麗な織布っ…!!」
「京は西陣の反物か。今度はこれで着物を仕立てさせるか」


私が上げる声に、一つ一つ丁寧に返してくれるのが嬉しくて。ついついはしゃぎながら、気忙しくきょろきょろと辺りを見回す。そしてふと我に返ると、信長様がじっとこちらを見ていた――それは言葉に言い表せない様な、酷く優しいお顔で。


「見目は姫でも、振舞いは町の童だな」
「…あっ、ごめんなさい…折角綺麗にしてもらったのに、ついっ…」
「構わぬ。そのまま、思う存分堪能すれば良い」


そう言うと、また信長様が先に立って手を引いてくれる。大きな背を追うように、少し後ろを歩く。はじめより格段に馴染んだ、繋がれた手。


「そう言えば、信長様が歩いていても誰も気になさらないのですね」
「この様な軽装で主が歩いているとは誰も思うまい。貴様は民の目を引いているようだが」


その言葉に、改めて周りを伺ってみる。何処の姫様だろう、と言う声が聞こえ、思わず顔が赤らむ。


「明日から市の噂の種であろうな、何処ぞの姫君が忍んで来たと」
「私、そんな…姫なんかじゃないのに…!」
「だが、今日は俺の姫よ…目的地はこちらだ、どうぞ、姫」


姫、だなんて。その言葉に一層赤らんだ顔のまま、手を引かれ裏路地に入っていく。急に暗くなった辺りに少し不安になり、信長様の揺れる小袖の裾を掴む。路地の行き止まりに、御座を引いただけの簡易な店が見えてきた。


「…目的地?」
「そうだ。親父、いつもの物はあるか」
「…おや、いつもの。今日は随分可愛らしい連れ合いが居るね」
「こ、こんにちは…」

「では、これ、と。これは姫様にオマケだ」


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