第3章 【上杉謙信】ヘーラーの嘆き
その時、鈍い、と言われる私でも流石に気付くほどの、鋭く冷たい感覚が走った。
即座に佐助くんが横に飛び退くと、目にも止まらぬほどの速さで振り下ろされる刀筋。
「幾ら佐助であっても、千花を泣かせるとは万死に値するぞ…よって、大人しく俺に斬られろ」
「泣かしてませんよ。むしろ、今、千花さんを泣かせてるのは謙信様なんですけどね」
佐助くんはにこり、と笑うと。
どろん、といつもの掛け声一つ、煙が上がり姿を消した。
ありがとう、ともう見えない姿に小さく呟くと同時に、謙信様にぎゅ、と苦しい程に抱きしめられる。
「千花、どうした?俺以外の為に涙を流すなど、許さぬ」
「…ふふ、ほんとに、佐助くんの言う通り。謙信様のせいなんです」
訝しげに眉根を顰める謙信様が怒り出す前に、事の真相を伝えようと思うけれど。
自分の為に思い悩んでくれている事が、嬉しくて――
あともう少し、と、笑いながら、泣きながら、謙信様の身を強く抱きしめ返した。