第1章 【織田信長】恋に揺蕩う
「…さて。貴様の言う恋仲とは、どういったことをするのだ」
「はぁ…えっと、そうですね…デート…逢瀬、をしたりとか…?」
こうなったら信長様は止まらないと、今までの経験で身を持って知っている。ひとまず無難に答えてみると、信長様は少し思案する様な表情を浮かべた。その間も手は繋がれたまま。逃げようにも逃げられず、自分のよりも大きな掌に否応なしにも心臓が高鳴る。
「…ふむ」
「わっ…!?ちょ、っと待ってっ…!!」
何かを思いついたような顔の信長様に急にまた手を引かれ、歩き出す。またよろめきながらも何とか踏ん張って、抗議の声を上げると。ほんの少しだけ、私の歩幅に合わせるかのように歩みがゆっくりになった。
何だかんだ、信長様は横柄に見えても聞く耳は持っていて。いつも私が本気で嫌がる事はそう言えばしないな、と思い当たる。
少し余裕が出てきて、ちらり、と隣を歩く顔を盗み見る。薄く笑みを湛えながら、真っ直ぐに行く先を見据える眼に見蕩れそうになり、いけない、と私も向き直る。
この手から伝わってくる熱のせいで、煽られているんだ、そうに違いない。ふるり、と頭を冷ますように振る。そうこうしている内に、目的の部屋に着いたらしく信長様が立ち止まった。
「…女中部屋?此処に何か御用ですか?」
「鶴は居るか」
私の問に答えず、襖の向こうに信長様が呼びかけると。間もなく部屋が開かれ、女中頭のつるさんが顔を出した。
「鶴、これより城下へ出る…半刻で仕上げろ」
「まぁ、それはようございます。畏まりました」
「貴様は為されるが侭、気楽にしておれ」
信長様に背を押され、つるさんに笑顔で手を引かれ。部屋に入ると、ぴしゃり、と襖が閉められた。大きな鏡台の置かれた、だだっ広い部屋の中程で立ち尽くす。つるさんがぱたぱたと忙しげに奥に引っ込んだかと思うと、何人かの女中を連れてすぐに戻ってきた。そして――
「それでは、千花様。失礼致します」
「…へ、何…き、きゃあっ…!!!」