第13章 【豊臣秀吉】一度限りの奇跡
今朝はほんの少し、すれ違った。
洗濯桶を運んでいた私を、あの方は見留めて。
精が出るな、と笑いかけてくれた。
「重たくないか?」
「は、はい…!これくらい、平気です」
「そうか…
行く先があり手伝ってやれずすまないが、無理するなよ。
この暑さだからな」
陽に向かい咲く、黄色い大輪の花のような笑顔で。
まだ日の上り切らない時間なのに既に暑い、なのにあの人は汗すら眩しい。
汗だくで大桶を抱え、憂鬱だった気持ちはとっくにどこかに消え失せた。
ふらつく足元にぎゅっと力を込め、また陽光の下歩き出す。
そして真っ直ぐ続く道の向こう、あの方の背は既に陽炎のように、揺らぐほど遠い。
その背を見えなくなるまで、見つめながら。
明日から、この仕事も請け負うことがその時決まった――