第12章 【徳川家康】Vampirism(ヴァンピリズム)
「や、や、やっぱり…信じてもらえないよ、ねぇ」
また今にも泣き出しそうに、震えた途切れ途切れの声でそう言うと、千花はがくん、と項垂れた。
俺はその顔に、声に、昔から弱い…思わず抱きしめたくなるのを、今は話を聞いてやる時だ、とこらえる。
何より…面食らったものの、思い当たる節は幾つもあった。
まるで透けるように白い、血管の見えそうな肌。
夜目がやたらと効く。
チャームポイントの、尖り気味の八重歯も、そうと言われたらそうとしか見えなくなってくる。
「千花、落ち着きなよ」
努めて優しく声をかける。
彼女はおずおずと泣き濡れた目をまた、こちらに向けた。
「俺が、あんたの言う事を信じなかった事、無いでしょ」
何より、抜けているけれど真面目で嘘のつけない性格のこの子が、そんな大それた冗談を言うなんて。
恥ずかしがり屋で手を繋ぐのもやっとなのに、あんな大胆な振る舞いをするなんて、有り得ない。
今度は俺が、じっとその目を見つめ返す。
じんわりと目の端を紅く染め、白くて細い手指をつらつらと縺れ遊びながら。
千花が、ゆっくりと口を開く。
「信じて、くれるの」
「信じるよ。
…千花の言うことなら、何だって信じる」