第10章 【徳川家康】落ちると降りるは速度の違い
春の舞う花弁を集める様に。
夏の入道雲の柱を飛び渡る様に。
秋の散りゆく落ち葉を避ける様に。
冬の霜柱をわざと探して踏む様に。
軽やかな様な、覚束無いような。
舞い踊るような、頼りない幼子のような。
少し前を歩く、彼女の足取りから目が離せずにいる。
先を歩く癖に、たまにこちらを振り返り。
大きな瞳で、見つめてくる。
ちゃんと主人がついてきているか、確認をする飼い犬の散歩のようだと小さく笑う、けれど…
俺の目とちらりと視線がかち合うと、またふわりと前を向き直る…それはまるで、気まぐれな猫の一人歩きのように。
「たくみ」
名前を呼ぶと漸く立ち止まり。
こちらを向き、んふふ、と不気味な笑い声を上げた。
「寂しくなりましたかぁ、家康様?」
「…まさか。
浮かれて歩くから、見てられなくなっただけ…ほら、手を貸しな」
はいっ、と。
やけに素直な良い返事と共に、小さな手を差し出され。
この散歩…彼女が言う所の逢瀬、を楽しんでくれているのだろう、と。
じんわりと、胸があたたかくなるのを感じながら、また歩き出す――