第2章 【徳川家康】God BLESS you
寒さ厳しい折、夕暮れ近付く安土城。沈んでいく天道に照らされ、赤く輝く姿を下から眺める。そして、隣で歌い出しそうに機嫌の良い千花に、俺はひっそりと溜息をついた。
「ねぇねぇ、お客様ってどんな人?いい人?」
「持て成す価値も無い奴だよ」
「家康とは昔馴染みなんでしょ!?楽しみだなぁ…!!」
聞く耳を持ちやしない、とまた溜息。どうしてこんな事に、と独りごちる。覇権をどんどん拡げていく信長様の元には、新年が明けてからというもの、各地の武将達がひっきりなしに挨拶に訪れている。
今日来るのが、俺の昔からの顔馴染みだと言う理由で、門まで迎えに出されたのが、今。千花もそれを聞きつけ、俺の話を聞き出すだの何だの盛り上がり、勝手に着いてきた。
達磨のようにころころと着込んでいるのに、千花の鼻は寒さで真っ赤だ。そろそろ俺も寒い、彼奴、許さない――不穏な事を考えたのが伝わったのか、馬の蹄音が聞こえ、漸くか、と息をつく。
しかし、何も安堵した訳じゃ無い。これから巻き起こる面倒事を想像し、また溜息が零れたに過ぎなかった。
「家康殿ーーー!!!!」
「五月蝿い、離れて。鬱陶しい。」
「まぁそう言わずに、久しぶりなんだから!家康殿、相変わらず美しい!」
「黙れ。こんなに待たせて、詫びの一つも無いわけ?」
馬から下りてきたのは、女性と見間違われる程の見目麗しい、しかしれっきとした大々名。矢継ぎ早に繰り出される言葉とべたべたと鬱陶しい仕草に、千花が呆気に取られていることに気付き、べりっと無理やりその身体を引き離した。
「千花、此奴は秀秋。一応大名。名前は覚えるだけ無駄、忘れていいから」
「家康殿は相変わらず辛辣だ!初めまして、ええと、千花姫様」
「…あ、秀秋様ですね、初めまして!姫様なんて呼ばれると困ります、どうぞ千花と呼んでください!」
漸く我に返ったらしい千花。しかし横の秀秋がふるふると震えているのに不穏な空気を感じ、千花をさっと引き寄せる。