愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第1章 愛の唄 序
―――――少年の願いは、つまるところ、こうだ。
―――――『全人類の救済』。このひとことに、尽きる。
善なる者も、悪しき者も、富める者も、貧しい者も。
健康な者も、病める者も、聡明なる者も、愚かな者も。
美しい者も、醜い者も、幸福な者も、不幸な者も。
愛する者も、憎い者も、全て。総て。凡て。すべて。
どのような人間であろうとも、等しく救う。
それがたとえ、自らの大切な存在を害した、憎悪すべき対象であっても。
其れは傲慢な願いであると、ある者は言う。
過ぎた願いであると、ある者は言う。
その願いが果たされたとしても、誰一人として、救われることなど無いと。
それでも、その過ぎた願い、傲慢を飲み干してでも、少年は進み続ける。
しかし、彼の精神は最早、疲労の限界だ。もしも彼が、生きた人間であれば、既に発狂している。人ならざる身であるからこそ、辛うじてその精神を保っていられるに過ぎない。
―――――――話を戻そう。
少年は、自らの願いを叶えたいのだ。
その手段は、聖杯の力による、第三魔法の行使
……なのだが、この際そういった小難しい手段についての説明は省こう。
なぜならば、この物語に於いて、そういった魔術論理は、何の意味も持たないのだから。
本当に救われなければならないのは、誰なのか?
その問いに対する答えは、既に明白だ。
しかし、そう。彼自身に、それだけの心を突きつける人間が、誰一人としていなかった。それこそが、彼に関する本当の悲劇とも言える。
さて、この物語は、本来ならばあり得ざるモノだ。
それに、“彼女”は、結局のところ、“彼”に届かなかった。
しかし、ここには、ほんの少しの想いがあります。
あなたがたが、“彼女”の心を信じてくれるのならば、それほど嬉しいことはありません。
きっと、届くと信じて、“私”はここから唄います。