第4章 禁じられた2人
返事は、無かった。
肩が震えていたから泣いているのだろう。
楽しそうに会話をしながらボール出しをしている谷地さんとそれをスパイクする日向はそんな彼女には目も向けずに、完全に二人の世界だった。
付き合っているのだから当然とも言える。
僕以外彼女の恋心を知らないのだから至極、まともなことだ。
でも僕は僕に背を向けて、報われない恋に涙を流す彼女を放ってはおけなかった。
僕だって彼女に恋をしているのだから、当たり前だろう。
「ごめん、私、、わた、し、、」
グズ、と鼻を啜る音が聞こえた。
ボロ泣きしているのだろう。
あの二人に見つかってうるさいことにならないうちに、星川を僕へと引き寄せた。
「見なくていい」
そっと星川の目を覆って、ちょっと抱きしめた。
あの二人にはまだ気付かれていない、彼女の異変。
彼女のプライドのためにも、気付かれてはならない。
「見なくていいよ。あっち行こ。とりあえず顔、洗って来なよ」
体育館を出てすぐのグラウンドの水飲み場まで連れて行く。
喉の奥がヒク、と動いたのが見えた。
既にボロボロの彼女の心を更に追い落とすかのような日向の態度が、本当に気に入らない。
僕なら。
僕なら星川にそんな顔、絶対にさせない。
「なんでかなあ、私、他の人じゃだめなんだよね、」
「、、うん」
「気持ち悪いよね、ダメだよね、こんなの」
「、、星川、いいから、ちょっと黙ってなよ」
「考えちゃダメなのに、なんかいも、なんかいも考えちゃう。私、男だったらよかったのに、そしたら、そしたら、」
「星川、いいからちょっと黙れ」
無理矢理僕の方を向かせて、そのまま抱きしめた。
愛しい人の名前を何度も何度も呼ぶ彼女のその声は、もう聞きたくはなかった。
今までだって散々聞いたその声を、もう聞きたくなかった。