第4章 禁じられた2人
「、、おはよ」
久しぶりに見た彼女の顔は、自分が思うよりも存外いつも通りの彼女の顔だった。
幾分か顔色は悪くて、おまけに頬が少しこけてたから不健康そうな印象は受けるけど。
おはよ、と挨拶をする彼女の声は、いつもと同じ音色だ。
自分の好きな彼女の、そのままの声。
「おはよ、星川」
挨拶するなり彼女は一旦外したらしいイヤホンを付け直し、じゃあ、と足早に去ろうとした。
どうせ向かうところは同じところなくせに、彼女は放って置いてとでもいうかのように僕からスルリと離れていく。
「ねえ星川」
普通のイヤホンでは耳が小さいからすぐにズリ落ちてくるんだよね、といつだかこぼした彼女のイヤホンは耳に掛けるタイプのそれだった。
痛くないようにとそっと彼女の耳からイヤホンを外して、話し掛ける。
「なに?ちょっと、返してよ」
それ、と彼女が言う。
注意深く彼女の顔を見つめたが、いつもと同じ、いやむしろそれ以上の無表情だ。
面倒だ、とでも言うように眉根を寄せ、でも不思議と怒りは感じられない。
こんな風に僕が彼女へとじゃれること自体が珍しいからかもしれないが。