第1章 Reflexion,Allegretto,You [緑谷]
昨夜、夢を見た。
私も彼も、まだ子供だった。
雄英高校へ進学した彼を知る方法は、テレビしかなかった。
敵といろいろあったみたいだし、ヒーロー殺しに襲われたりも。
私の何十倍も濃い高校生活を送って、彼はヒーローになった。
『僕がきた!』
その声は、テレビの向こう側。
もう二度と手が届かないと気づいたのは、高校生の時。
テレビでその姿を見るたびに、遠くへ行ってしまったような気がして。胸が痛い。
でも、私は“ファン”だから。
彼がテレビに出ていたらどうしようもなく、見てしまう。
今日も、画面の向こう側から彼の光が私を照らす。
あの時よりも明るくて、
あの時よりも冷たくて。
『助けを求める人の、希望になれば』
あの時よりも、果てしなく。
手の中のコーヒーは熱く苦々しい。
もう何年もひと箱500円のインスタントコーヒーを買っているが、今まで、最後まで飲めたことはないのだ。
全く私は、あの頃と変わっていない。
あの黄昏の中に、すべて置いてきてしまったのだ。
コーヒーに口をつけると、コーヒーの苦い味や香りの気配が口に残る。
「にが」
『あの高校生活があったから、今の僕がいる』
この間のインタビューで、彼はそう言ってた。
じゃあ、その前は。
あの黄昏は。
私の存在は。
彼の中に少しでも
「……残って…」
昨夜、夢を見た。
彼も私も、まだ15歳で。
いつかまたあの光を見ることができると、
そう思っていた。