第12章 毒をもって毒を制す
大和side
「………なんでここにいるんすか」
俺が仕事から帰ってくると、リビングでリクに餌付けをしている恋人がいた。
「あら、大和。ちょうどいいところに来たわね。バームクーヘン、あなたも食べる?」
「じゃあ、いただきます……じゃなくて!なんでこっちの事務所にいるんですか!?」
「いいじゃない。たまにしか来ないんだから」
彼女が手に持つフォークは迷うことなく小さく切ったバームクーヘンへ伸び自然な動作でリクの口へ運ばれた。
「ほら、陸、あーん」
「あーん」
「美味しいかしら?」
「……(ゴクッ) はい!とっても!!」
「ふふ、よかったわ。それじゃあもう一口………」
「って、うちのセンターに餌付けするのやめてください!」
俺はとっさにリクと彼女の間に入った。
「あら、大和もあーんして欲しいの?」
「ハァ……違いますよ」
「大和」
「何ですか……」
彼女の方を向くと俺の唇に人差し指が当てられた。
「敬語はいやよ。いつも通り百合って呼んで」
「………っ」
正直俺は彼女のこういうところに弱い。
女に振り回されるのは性に合わないが、彼女の前だと弱くなってしまう。
それもこれも彼女が醸し出す雰囲気のせいだ。
「さすが今をときめくセクシー女優さんは男慣れしてますね」
「ふふ。大和だけよ」
「そういうところだよ……」
「あ、あのー………」
「あ、リク。ごめんな、忘れてた」
俺がさらっとそう言うとリクは「ひどいですよ〜!」と叫んだ。
「それで?」
俺は彼女に向き直った。
「先週も来てたけど、なんか用でもあんの?」
彼女は脚を組み直して「別に」と呟いた。
「特別な用は無いわ。強いて言うなら癒しを求めに、かしらね」
「は?」
「だって、考えてみてよ。私の事務所、陸みたいな純粋な子居ないんだもの。あ、でも、龍之介は比較的純粋な方ね」
「………あんた、そんだけのために先々週も先週も今週も菓子持って来てんのかよ」
「そうよ?」
思わずうなだれた。
俺の彼女、自由すぎるだろ。
「あー、もういいよ。それよりあんた時間大丈夫なわけ?」
チラリと彼女が腕時計を見る。
その小さな仕草すら艶やかだった。
「あら、もうこんな時間。仕方ないわ、また来週来るわね」
彼女は、リクの頭を撫でてから鞄を持ち玄関の方へ向かった。
「あ、そうだ。大和、明後日のオフ空けといてね」
「やっぱ用事あんじゃねーか!」