第1章 ヤキモチにはご用心
「ねぇ、こっち向いてよ」
「向いてる」
「どうして怒ってるの?」
「怒ってない」
「それならなんでそんなに声のトーンが低いの?」
「いつもこんな声だから」
東雲 百合、今、人生最大のピンチです。
ただいま彼氏の九条 天くんの機嫌が至上最高に悪いんです。
その原因がどうやら私にあるらしくて…。
遡ること30分前。
「天くん!久しぶり!」
「久しぶり。百合さん」
「一ヶ月ぐらいかな?会えなかったの。ドラマの撮影があったんだよね?」
「うん。これでも早く済ませてきたんだよ」
「え、そうなの?」
「うん。早くキミに会いたくて」
天くんの瞳がじっと私を見つめる。
「キミは?早くボクに会いたかった?」
天くんの声が甘く脳内に響いた。
「う、ん……。私も、早く天くんに会いたかった」
「ふふっ。嬉しい」
その声を聞くだけで、その笑顔を見れるだけで、体温が上がっていくのを感じ急いで話題を変えた。
「あ、そうだ!天くん、これ見て!」
私は一冊の雑誌を天くんに渡した。
「キミ、最近表紙を飾ることが多いね」
「うん。本当にありがたいよ」
「それで、これがどうかしたの?」
「あのね、今回は上手く表情が作れたと思うの。だから、天くんに感想を聞きたくて」
「ふーん……」
天くんが一枚一枚丁寧にページをめくっていく。
少し時間が経った後、天くんがふと手を止めてこっちを向いた。
「今回の企画って、これ?」
表紙の一番目立つ文字を天くんが指差す。
「うん。そうだよ」
そこには『抱きたい女特集』と書かれていた。
これでも私は抱きたい女ランキング3年連続1位。
天くんに渡した雑誌には、その抱きたい女ランキング5位までの人が一人一人違ったテーマで撮影している。
私のテーマは『夜、本気のワタシ』だ。
そして、抱きたい女ランキング殿堂入りを記念してページ増量となっている。
「…」
「どうかな?雰囲気に合ってるかな?」
「…」
「天くん?」
「…」
天くんはずっと黙ったままだった。
私は天くんが言葉に詰まるほど酷いのかと思い、だんだんと不安になってきた。
「ねぇ…そんなに酷い……?」
私が不安げに聞くと「はぁ…」というため息が聞こえてきた。