第2章 神威(調教)ー前編ー
ここは幕府御用達の諜報機関の本部。その一角で事は動き出そうとしていた。
「サナ、幕府の○○様の使いの方がお見えだ。お通しするぞ。」
「はい、お願いします。」
ガチャッ
ドアを開けて入って来たのは、40代〜50代の、高価そうな着物を着た、太った男だった。手の形から察するに、良さげな刀をぶら下げてはいるが、剣の腕は下の下ぐらいだろう。賊に襲われでもしたら、何もできずに無様に逃げ惑って最終的に死ぬタイプの人間だ。こんな弱そうな奴を使いに出して大丈夫か、幕府。
「本日はお忙しい中、わざわざご足労頂き誠にありがとうございます。どうぞお掛け下さい。」
「うむ。」
頭の中ではとんでもなく失礼な事を考えながら、私は顔だけ仕事モードに入った。
「そなたが結城サナか…。剣術も武術も洞察力も、スパイに必要な能力を全て完璧に兼ね備えた、諜報員がいると言うから、どんな怪物かと思えば…これ程までに美しい女子(おなご)だったとは…」
どうでも良い。弱い者に興味はない。その言葉をかろうじて呑み込んだ。