第1章 思えば…
「あにき、ねえちゃん泣かせたろ?」
水瀬と一緒に帰ってから妹から向けられたのは大好きな姉ちゃんを泣かせた怒りだった。妹は水瀬のことが大好きなものだから、水瀬がさっきの告白で泣いたことで少し腫れぼったくなって目元を赤くしてるから俺が泣かせたんだと思われたんだろう。まあ、実際そうなんだけどよ。
「ちはるちゃん。別に泣かされてないよ?」
「あにき以外にねえちゃん泣かせるやついねぇもん」
「たしかに俺が泣かせたようなもんだな」
さて、どうしたもんか…
「今度からあやを泣かさねぇから大丈夫だ」
「……ほんとか?」
「俺が約束破ったことあるか?」
「……ない」
「じゃあ、指切りしような」
「「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーばす、ゆびきった」」
「あれ? 紅郎、いつからあやちゃんの呼び方戻したんだ?」
妹と約束の指切りをしていると、後ろから父ちゃんの声が聞こえてきた。振り向くと本当に父ちゃんがいた。
「おかえり、父ちゃん。びっくりしたぞ」
「父ちゃん! おかえり!」
「お、おかえりなさい、お邪魔してますっ」
「お、ただいま。今日はなんとか日が変わる前に帰れてよかったわ」
妹に抱きつかれて、それを軽々と受け止めて抱っこした父ちゃんの顔は破顔していてだらしなかったが、すぐ俺とあやに視線を向けた。
「で、お前ら結局のところくっついたの?」
「……なんでわかんだよ?」
「わかるだろ。あやちゃん指摘されて顔赤くしてるし、お前も耳赤いし、呼び方が苗字から名前に戻ってるし」
さすが父と言うべきなのか、普段家にいないくせに俺らのことをよく見てやがった。
「ちはる、やったな。あやちゃん、兄ちゃんの嫁さんになるからほんとに姉ちゃんになってくれるぞ」
「まじで!? やったぁ!」
「え、え、な、急すぎですよ…」
「満更じゃなさそうだぞ。よかったな、紅郎」
「……おう」
バレてよかったのか、悪かったのか…
そりゃ、手放す気は一切ないけどよ。
「あ、でも、水瀬さんにはちゃんと言っとけよ?」
「わかってるよ」